痛みがゼロになることより、人生が前に進むことのほうが大切です。
―整形外科治療の本当のゴールとは―
整形外科医の塗山正宏です。
外来で患者さんから、こんな質問を受けることがあります。

先生、この痛みは完全になくなりますか?
もちろん、痛みを軽減することは治療の大きな目的です。
しかし私は少し視点を変えて伝えたいです。

痛みがゼロになることより、人生が前に進むことのほうが大切です。
これは、人工股関節置換術や人工膝関節置換術、そして変形性関節症の診療を続ける中で、私自身が何度も実感してきた言葉です。
■ 痛みは「数値」だが、人生は「時間」
痛みは、VAS(視覚的評価尺度)などで数値化できます。
しかし人生は、数値では測れません。
- 行きたかった場所に行ける
- 家族と外出できる
- 仕事や趣味を再開できる
- 自分の足で生活できる
これらはすべて、「痛みが少し残っていても実現できる人生」です。
実際、「軽度の痛みが残っていても、満足度は高い」という報告は、人工関節の研究でも数多く示されています。
■ 「痛みゼロ」を目指しすぎる落とし穴
痛みを完全になくそうとするあまり、
- 動くのが怖くなる
- リハビリを控えすぎる
- 活動量が落ちる
- 筋力が低下する
という悪循環に陥ることがあります。
これは本末転倒です。
整形外科治療の目的は、
「痛みを全く感じない身体」を作ることではなく、
「痛みと付き合いながらでも動ける身体」を取り戻すこと です。
もちろん、「痛みが全くない動ける身体」が理想ではありますが…。
■ 人工関節手術は「人生を止めないための治療」
人工股関節置換術や人工膝関節置換術は、関節の痛みで人生が止まりかけている方にとって、非常に有効な治療法です。
手術後、
- 痛みはゼロではないが歩ける
- 不安はあるが外出できる
- 完璧ではないが生活できる
この状態こそが、人生が再び前に進み始めた証拠 です。
■ 比べる基準は「昨日の自分」
他人と比べる必要はありません。
完璧を目指す必要もありません。
- 昨日より少し長く歩けた
- 昨日より少し楽だった
- 昨日より少し外に出られた
それだけで十分です。
人生は、「痛みがゼロになった日」から再開するのではなく、「一歩踏み出した日」から動き始めます。
■ 最後に ― 整形外科医塗山として伝えたいこと
痛みを完全になくすことができない場面もあります。
それは医療の限界でもあります。
しかし、人生を前に進めるお手伝いは、必ずできます。

痛みがゼロになることより、人生が前に進むことのほうが大切です。
この言葉を、不安の中にいる患者さん一人ひとりに届けたいと思います。
そして、その「前進」を、整形外科医として一緒に支えていきます。
【執筆】塗山正宏 医師
世田谷人工関節・脊椎クリニック
日本整形外科学会認定整形外科専門医


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