人工股関節置換術の最小侵襲手術(MIS)
最小侵襲手術は、手術における身体に対するダメージを最小限に抑えようとする手術方法です。
最小侵襲手術を英語で言うとMIS(Minimally invasive surgery)と呼びます。
私は人工股関節全置換術(THA:Total hip arthroplasty)を行う際には、基本的に全部の患者さんに最小侵襲手術(MIS:Minimally invasive surgery)を行っています。
MISと一言でいっても皮膚切開が小さいだけの最小皮膚切開手術(Minimally incision surgery)のことを当初はMISと言っていました。
しかし、皮膚切開が小さいだけでは、皮膚の下では従来と同じように筋肉や腱を切離しており、本当の意味での最小侵襲手術ではなく、皮膚切開のみが最小なだけであり、股関節周囲の組織に関しては従来の手術侵襲と大きく変わらないと考えられています。
一般的によく行われている股関節の標準的な後方アプローチによる人工股関節全置換術は、最小皮膚切開手術かもしれませんが、最小侵襲手術ではありません。
他院では半数以上の病院で後方アプローチで手術が行われています。後方アプローチでは通常筋肉、腱を切って手術を行います。筋肉や腱は一度切ってしまうと完全には元に戻りません。
可能な限り筋肉や腱にはメスを入れない事がベストです。
現在は、皮膚切開が小さいだけではなく、さらなる低侵襲を目指し、筋肉、腱を切離しない筋肉の間から手術を行う人工股関節全置換術をMISと言います。
ちなみに、人工股関節全置換術と言っても手術方法は色々あります。
手術を行うための進入法(皮膚を切開する位置)が主に4つあります。
主に4つの手術アプローチがありますが、それぞれ皮膚を切開する位置が変わります。
病院や医師により人工股関節の手術方法が変わりますので、人工股関節の手術を受ける際には担当医師に手術ではどのアプローチ方法を用いるのか確認してもいいでしょう。
人工股関節置換術の真の最小侵襲手術
現在MIS(筋間アプローチ)の手術方法には主に3種類あります。
この3つの手術方法が筋肉と腱を切らずに行う真のMISと言います。
現在MISの手術方法としては主に3種類あり、縫工筋と大腿筋膜張筋の間から股関節に進入する仰臥位前方進入法(DAA:Direct Anterior Approach)、大腿筋膜張筋と中殿筋の間から股関節に進入する仰臥位前外側進入法(ALS:Antero-Lateral Supine Approach)、側臥位前外側進入法(OCM)が挙げられます。
仰臥位手術は手術台にあおむけで寝て行う手術で、側臥位手術は手術台に横向きで寝て行う手術です。
私は人工股関節のインプラント設置(特にカップの設置)がより正確に行える仰臥位手術を基本としており、基本的にはALSによる人工股関節全置換術を行っています。
この前方、前外側を含めた前方系アプローチには、筋肉や腱を切らずに手術を行うため、術後の痛みが少なく股関節の安定性を高い状態を保つことが出来ます。
そのため、人工股関節全置換術の合併症のひとつである脱臼のリスクが低いのです。
さらに組織を出来るだけ温存するために、術後の早期回復を得ることが出来ます。
これらの利点があるために、私は現在ほとんどの患者さんに仰臥位前外側進入法(ALS:Antero-Lateral Supine Approach)で人工股関節全置換術を行っています。
色々な人工股関節全置換術の手術方法(前方、側方、後方など)を経験した結果、この手術方法に落ち着きました。
究極の低侵襲人工股関節置換術
現在は筋肉や腱を温存するだけでなく、関節包靭帯も可能な限り温存する手術方法を行っています。
通常の前方アプローチの手術方法ではIliofemoral ligament(腸骨大腿靭帯)を大腿骨付着部から切ってしまうのですが、より低侵襲な手術方法では、腸骨大腿靭帯の一部のみ(赤の部分だけ)を切るだけです。
関節包の一部しか切らないため、術後の人工股関節の安定性が非常に高くなります。
後方に対する脱臼抵抗性が高いのはもちろんですが、前方の関節包も温存されているため、前方に対する脱臼抵抗性も高いという利点があります。
患者さんによっては、
・腸骨大腿靭帯
・恥骨大腿靭帯
・坐骨大腿靭帯
のすべての関節包靭帯を温存できる場合もあります。
この手術方法で行った患者さんは、通常の仰臥位前外側進入法(ALS)の手術方法よりさらに術後の回復が早い印象があります。
この手術方法は患者さんの股関節の変形の程度や体型によっては適用できない場合があり、全員に行える方法でありません。
具体的に言うと、
の場合は前方関節包靭帯温存が困難となります。
その場合は通常の仰臥位前外側進入法(ALS)になります。
通常の仰臥位前外側進入法(ALS)でも回復は十分に早いので心配は要りません。
この関節包靭帯温存の手術方法は、現在世の中に存在する人工股関節全置換術の最も低侵襲な手術方法と考えています。
最終的には患者さんの体型、股関節の形態、可動域、使用するインプラントなどを総合的に考慮し、術式を選択していますが。体格や股関節の変形の程度により、通常の病院では最小侵襲手術が適応にならない場合もありますが、かなり変形が強い場合でも、私は殆どの患者さんにALSによる人工股関節全置換術を施行しています。
少しでもクォリティの高い人工股関節置換術を提供するのが私の役目!
「ダンベルが私の手術を支えてくれている笑」
常に手術を進化させていきたいと思い続けている整形外科医の塗山正宏でした。
【執筆】塗山正宏 医師
世田谷人工関節・脊椎クリニック
日本整形外科学会認定整形外科専門医
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