関節は替えられても、気持ちは替えられない。だからこそ、心に寄り添う医療を。
こんにちは。整形外科医の塗山正宏です。
人工股関節置換術や人工膝関節置換術を検討されている患者さんから、

手術すれば、すべての不安が解消されますか?
と質問されることがあります。
そんなとき、私は必ずこうお伝えしています。

関節は替えられても、気持ちは替えられません。
人工関節手術は、医学的には非常に優れた治療ですが、患者さんの不安・期待・恐怖まではメスとハンマーでは解決できません。
■ 人工関節手術は身体だけの治療ではない
手術は、変形性股関節症や変形性膝関節症による痛みを取り除き、歩行や日常生活の質(QOL)を大きく向上させます。
しかし、研究によると、術後の患者満足度は、関節機能だけでは決まらない ことが示されています。(Bourne RB et al., Clin Orthop Relat Res, 2010)
つまり、手術が成功しても、
「想像していたほど良くならなかった」
「まだ怖くて動けない」
と感じる方もいるのです。
この背景には、身体ではなく“心の問題”が関わっています。
■ 心理状態は回復に影響する
人工関節置換術後の回復についての研究では、
- 不安や抑うつが強い患者ほど、術後の歩行速度が遅い
- 前向きな心理状態は、リハビリ継続と機能改善につながる
と報告されています。
(Riddle DL et al., J Bone Joint Surg Am, 2010)
つまり、
「心のケア=回復の一部」
なのです。
■ 医療に必要なのは“寄り添い力”
患者さんが手術前に抱える不安はさまざまです。
- 本当に歩けるようになるのか
- 手術は痛いのか
- 何歳まで関節は持つのか
- 仕事や趣味に復帰できるのか
医師の役割は、ただ関節を置換することではありません。
✔ 痛みに共感し、
✔ 恐怖心を言葉にしてもらい、
✔ 患者さんの人生背景を理解し、
✔ 一緒に回復の道を歩む
こうした姿勢こそが「寄り添う医療」だと考えています。
■ その人に合ったリハビリを
人工関節手術後の理想的なリハビリは、一つではありません。
- 登山を再開したい人
- 孫と手をつないで歩きたい人
- 痛みなく家事をしたい人
- 仕事に早く復帰したい人
“ゴール”が違えば、リハビリの方向性も変わります。
だからこそ医療者は、身体だけでなく、その人の価値観を理解する必要があるのです。
■ 最後に ― 関節より大切なもの
人工関節手術は、失われた機能を取り戻す素晴らしい医療技術です。
しかし、どれだけ医学が進歩しても、「人の気持ち」を機械のように交換することはできません。
だから私は、これからもこの言葉を大切にしたいと思います。

関節は替えられても、気持ちは替えられない。
だからこそ、心に寄り添う医療を。
患者さんが安心して一歩を踏み出せるよう、医師として、そして人として寄り添い続けたい。
そう願っています。
【執筆】塗山正宏 医師
世田谷人工関節・脊椎クリニック
日本整形外科学会認定整形外科専門医



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