「痛みは人生の終わりを知らせるものではありません。身体から届いた『休んで』という手紙です。」
― 股関節や膝の痛みは、あなたの身体からの大切なメッセージ ―
整形外科医の塗山正宏です。
1. はじめに|痛みは「敵」なのでしょうか?
外来で患者さんからよくこんな言葉を耳にします。
- 「痛みさえなければ何でもできるのに。」
- 「歳だから仕方ないですよね。」
- 「もう治らないと思っています。」
痛みが続くと、不安になります。
気持ちも沈みます。
「このまま歩けなくなるのではないか。」
そんな思いを抱えて受診される患者さんも少なくありません。
私は診察室で、こんな言葉をお伝えすることがあります。

痛みは人生の終わりを知らせるものではありません。
身体から届いた『休んで』という手紙です。
この言葉には、私が整形外科医として長年診療してきた中で感じている思いが込められています。
2. 痛みは身体を守るための大切な仕組み
医学的に見ると、痛みは身体を守るための警報装置です。
例えば、
- 熱いものに触れて手を引っ込める
- 足首をひねって無理をしないようにする
こうした反応は、痛みがあるからこそ起こります。
つまり痛みは、身体が壊れないように守ってくれているサインなのです。
変形性股関節症や変形性膝関節症でも同じです。
関節に負担がかかり続けると、身体は「これ以上無理をしないで」と痛みという形で知らせてくれます。
3.「休んで」という手紙を放置するとどうなる?
ここで大切なのは、「休むこと」と「放置すること」は違うという点です。
最初は歩きすぎた日の痛みだけだったものが、
- 毎日のように痛む
- 階段で強く痛む
- 夜中にも痛む
- 安静にしていても痛い
という状態になってきたら、身体からの手紙は何度も届いている状態です。
このサインを長期間無視すると、
- 軟骨のすり減りが進む
- 関節の変形が進行する
- 筋力が低下する
- 歩行能力が落ちる
といった悪循環につながることがあります。
4. 我慢することが「治療」ではありません
日本人はとても我慢強い国民性があります。
診察室でも、
「もう少し我慢しようと思っていました。」
という言葉をよく耳にします。
しかし、我慢そのものが病気を治すわけではありません。
もちろん、一時的な筋肉痛や軽い疲労であれば休息が有効です。
一方で、変形性股関節症や変形性膝関節症のように関節の変性が進行する病気では、痛みを何年も我慢し続けることで筋力や活動量が低下し、術後の回復にも影響することがあります。
適切なタイミングで診断を受け、保存療法や必要に応じて手術を検討することが、将来の生活の質(QOL)を守ることにつながります。
5. 人工関節は「痛みを消す手術」ではありません
人工股関節置換術や人工膝関節置換術は、「痛みだけを取るための手術」ではありません。
その本当の目的は、
- また歩けるようになること
- 買い物を楽しめること
- 趣味を再開できること
- 家族と旅行へ行けること
つまり、痛みによって狭くなった人生を、もう一度広げることです。
だから私は、人工関節を検討するときも、「レントゲンだけ」ではなく、「患者さんがどんな生活を送りたいか」を大切にしています。
6. 実際の患者さんのお話
70代の女性患者さんが、初診でこう話してくださいました。
「先生、ここ数年、股関節が痛くて散歩もやめました。でも、みんなに心配をかけたくなくて我慢していました。」
検査では、変形性股関節症がかなり進行していました。
人工股関節置換術を受けられ、リハビリを続けた半年後。
診察室で見せてくださったのは、ご友人と公園を散策している写真でした。
患者さんは笑顔でこう言われました。
「もっと早く相談していればよかったです。あの痛みは、身体からの『休んで』という手紙だったんですね。」
その言葉を聞いたとき、私も改めて「痛みには意味がある」と実感しました。
7. 痛みと上手につき合うために
痛みがあるからといって、すべての運動をやめる必要はありません。
大切なのは、
- 痛みの原因を知ること
- 適切な治療を受けること
- 無理をしすぎないこと
- 必要な運動を続けること
です。
「痛いから動かない」
「痛いけれど無理に動く」
そのどちらでもなく、痛みの意味を理解しながら身体と付き合うことが、長く健康に歩き続ける秘訣です。
8. まとめ

痛みは人生の終わりを知らせるものではありません。
身体から届いた『休んで』という手紙です。
痛みは、あなたを困らせるためにあるのではありません。
これ以上悪くならないように守ろうとしてくれている、大切なサインです。
しかし、その手紙を何度も受け取りながら放置してしまうと、関節の変形が進み、歩ける未来まで失ってしまうことがあります。
もし、
- 歩くたびに股関節や膝が痛む
- 痛みのために外出が減った
- 趣味や旅行を諦めている
そんな状況が続いているなら、一度整形外科専門医に相談してください。
医療の役割は、痛みを我慢させることではありません。
その痛みが伝えようとしているメッセージを読み取り、あなたが「また歩ける人生」を取り戻せるようお手伝いすることです。
私は、患者さん一人ひとりの人生に寄り添いながら、その「手紙」の意味を一緒に考えていきたいと思っています。
9. 参考文献
- International Association for the Study of Pain (IASP). IASP Terminology.
- Hunter DJ, Bierma-Zeinstra S. Osteoarthritis. N Engl J Med. 2019;381:1418-1429.
- Katz JN, Arant KR, Loeser RF. Diagnosis and Treatment of Hip and Knee Osteoarthritis. JAMA. 2021;325(6):568-578.
- Bannuru RR, Osani MC, Vaysbrot EE, et al. OARSI guidelines for the non-surgical management of knee, hip, and polyarticular osteoarthritis. Osteoarthritis Cartilage. 2019;27(11):1578-1589.
【執筆】塗山正宏 医師
世田谷人工関節・脊椎クリニック
日本整形外科学会認定整形外科専門医


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