おはようございます!
今日も元気一杯に過ごしたい塗山です。
いやっほ~!
今回のテーマは、
人工股関節置換術後の坐骨神経麻痺についてです。

坐骨神経麻痺って知ってますか?

麻痺って聞くと怖いわ…
人工股関節置換術後の坐骨神経麻痺とは?
こんにちは!整形外科医の塗山正宏ですよ!
人工股関節置換術(Total Hip Arthroplasty:THA)は、変形性股関節症や大腿骨頭壊死症などで機能障害を抱える患者さんにとって、痛みの改善・生活の質向上をもたらす非常に有用な手術です。
しかし、ごくまれに合併症として「坐骨神経麻痺」が発生することがあります。
これは患者さんの生活に大きな支障をきたす可能性があるため、正しい理解と予防、適切な対応が求められます。
1. 坐骨神経とは?どこを通る?どんな働きをしている?
坐骨神経(sciatic nerve)は人体最大の末梢神経で、腰椎のL4〜仙骨のS3から出て、梨状筋の下をくぐりながら臀部を通り、大腿後面・下腿・足まで分布しています。
- 股関節においては後方に位置しており、特に後方アプローチ時に近接
- 大腿部で脛骨神経と腓骨神経に分岐
- 腓骨神経枝は膝の外側〜足背の感覚と足関節背屈を司る運動神経支配を担う
⚠️ 特に腓骨神経枝は薄くて牽引や圧迫に弱く、麻痺が起こりやすい部位です。
2. 発症頻度と報告されているリスク因子
🧮 発生率:
- 全人工股関節置換術のうち0.2~3.0%に発生
(Farrell CM et al., 2005 / Park et al., 2016)
🧷 リスク因子:
因子 | 説明 |
---|---|
発育性股関節形成不全・高度な骨頭偏位 | 下肢延長による坐骨神経の牽引リスク |
術中の過剰牽引・レトラクターによる圧迫 | 神経の微細な血流障害や機械的損傷 |
骨セメント逸脱や出血性血腫 | 神経の二次的圧迫 |
再置換術・重度の骨欠損 | 解剖の変化により神経損傷のリスク増加 |
低身長・痩せ型体型 | 坐骨神経が皮膚表面に近く圧迫に弱い |
🧪 文献:Park JH, et al. Clin Orthop Relat Res. 2016;474(8):1796–1806.
3. 坐骨神経麻痺の症状とは?
麻痺の症状は神経のどの部位が障害されるかによって異なります。
🌐 腓骨神経枝が障害される場合(最も多い)
- 足首を背屈できない(下垂足)
- 足の甲やすねの外側がしびれる、感覚が鈍い
- 歩行時につま先を引きずる(スラップ歩行)
🌐 脛骨神経枝が障害される場合(比較的まれ)
- 足底の感覚異常
- 足趾の屈曲が弱くなる
- ふくらはぎや足裏の痛み
4. 坐骨神経麻痺の診断方法
診断は臨床所見に加えて画像・電気診断を組み合わせて行います。
検査 | 内容 |
---|---|
神経学的診察 | 足関節背屈・外反の筋力評価、感覚障害の範囲を確認 |
MRI | 術後血腫や骨セメントによる神経圧迫の確認 |
神経伝導検査 / 筋電図(EMG) | 障害部位の特定、予後予測に有効(術後3週以降が目安) |
💡術直後からの神経症状は、術中牽引・圧迫によるものが多く、即時評価と対処が鍵となります。
5.人工股関節置換術後の坐骨神経麻痺の予後とは?
人工股関節置換術(THA)後に発症した坐骨神経麻痺の予後は、「障害の重症度」「障害部位」「障害の原因」「初期対応の早さ」によって大きく左右されます。
📊 回復率(文献より)
麻痺の重症度 | 回復率(目安) | 文献 |
---|---|---|
軽度(不完全麻痺) | 約80〜90% | Farrell et al., 2005; Kim et al., 2008 |
中等度 | 約50〜70% | Park et al., 2016 |
完全麻痺(total palsy) | 20〜40%程度 | Schmalzried et al., 2001 |
📘 Farrell CM et al. J Arthroplasty. 2005
→ 36例の坐骨神経麻痺症例のうち、軽度麻痺の85%は12ヶ月以内に回復
⏳ 回復までにかかる期間
回復段階 | 期間の目安 | コメント |
---|---|---|
初期回復(神経再伝導の兆し) | 3~6週以内 | 筋電図での変化が出始める時期。早期改善例はこの時期から兆候あり |
中期回復(ADL改善) | 3〜6ヶ月 | 多くの軽度例はこの期間で自立歩行が可能に |
完全回復 or 慢性化 | 6〜12ヶ月以上 | 重度例では1年以上かかるか、回復が不完全となるケースも |
📘 Kim YH et al. J Bone Joint Surg Br. 2008;90(11):1470–1476
→ 約1年での回復が期待できるのは不完全麻痺に限られる。
🔍 重症度と予後の関係
✅ 不完全麻痺(incomplete palsy)
- 感覚低下や軽度の筋力低下が主体。
- 比較的早期(〜6ヶ月)に回復する可能性が高い。
- 神経伝導が保たれている場合、リハビリによる回復が見込まれる。
❌ 完全麻痺(complete palsy)
- 筋力はMMT 0~1、感覚も完全に消失している状態。
- 長期的なAFO装具や杖歩行が必要となることがある。
- 神経剥離術などの外科的介入が考慮される場合もある。
📉 予後が悪くなりやすいケース(危険因子)
リスク因子 | 解説 |
---|---|
高度な下肢延長(>3cm) | 神経が伸張され、構造的損傷を生じやすい |
術後血腫や骨片圧迫が放置された場合 | 圧迫性神経障害は持続時間が長いと不可逆的損傷のリスク |
再置換術後 | 手術時間の延長、解剖の乱れ、線維化が障害回復を妨げる |
神経伝導が術後数ヶ月たっても回復しない場合 | 神経断裂や不可逆的変性の可能性あり |
6. 治療とリハビリテーション
🔹 軽度〜中等度の麻痺(神経伝導あり)
- 経過観察+神経栄養薬(メコバラミンなど)
- 神経障害性疼痛にはプレガバリン・デュロキセチン
- 足関節装具(AFO装具)で歩行サポート
- 理学療法士によるストレッチと筋再教育
🔹 重度の麻痺・改善しないケース
- 術後早期に血腫・骨片圧迫が疑われる場合は緊急再手術
- 麻痺が6ヶ月以上持続する場合、神経剥離術や後脛骨筋腱前方移行術なども選択肢
- 長期的な装具装着・機能代償療法(足底板や歩行補助具)を併用
📘 Papadopoulos EC et al. J Bone Joint Surg Am. 2001;83(4):583–586
→ 軽症は6ヶ月〜1年で自然回復する例も多い。完全麻痺では回復率が20〜40%程度。
7. 予防のために術者ができること
- 下肢の延長は最大3cm以下にとどめる(高リスク例では特に)
- 術中のレトラクター位置と牽引力を常に確認
- 神経走行のバリエーションを理解し、解剖学的意識を持つ
- 術後早期の神経症状のモニタリング
8. まとめ:リスクを最小限に
坐骨神経麻痺は術前からリスク因子の評価と術中の丁寧な手技で可能な限りのリスクを減らす事はできますが、完全な予防は難しいです。
手術における合併症はどうしても一定の確率で起きてしまうものです。
坐骨神経麻痺は人工股関節置換術におけるまれな合併症ですが、重篤な合併症のひとつです。
症状に気づいたら、早めの評価と対応が不可欠ですね。
以上、少しでも参考になれば幸いです。
では、さらば!!
人工股関節置換術後の坐骨神経麻痺は起きてほしくない合併症のひとつ!

「1週間かけて作ったファイルが消えてる!!」
精魂尽くして作成ファイルは絶対消えないようにバックアップしている整形外科医の塗山正宏でした!
【執筆】塗山正宏 医師
世田谷人工関節・脊椎クリニック
日本整形外科学会認定整形外科専門医
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