膝関節261 人工膝関節置換術後の脚の長さ

脚の長さ 膝関節

整形外科医の塗山正宏です!

「先生、手術した脚が長くなった気がします。」

人工膝関節置換術(Total Knee Arthroplasty:TKA)の術後外来で、意外と多い相談です。

実はこの「脚が長くなった気がする」という感覚は、人工膝関節置換術後によくみられる現象です。

そして、その多くは時間とともに改善します。

今回は、

  • 人工膝関節で脚の長さは本当に変わるの?
  • 「長くなった気がする」のはなぜ?
  • 左右差があると問題なの?
  • インソールは必要?
  • 専門医が患者さんへ説明していること

について、最新のエビデンスを交えながら分かりやすく整形外科医塗山が笑顔で解説します。


1. 結論|脚は「少し長くなること」があります

まず結論です。

人工膝関節置換術後には、脚が数mm〜約1cm程度長くなることがあります。

これは決して珍しいことではありません。

実際のシステマティックレビューでは、

平均すると約6mm程度脚が長くなることが報告されています。

つまり、

ほなみさん
ほなみさん

先生、5mmくらい長くなった気がします。

という患者さんは、決して特別ではないのです。


2. なぜ脚が長くなるの?

答えは、

曲がっていた脚がまっすぐになるから。

これが一番大きな理由です。

O脚が改善する

変形性膝関節症では、膝が内側へ曲がる。

O脚になっている方が非常に多くいます。

すると、脚全体は実際より短く見えます。

手術でまっすぐになる

人工膝関節では、変形を矯正し、脚の軸(アライメント)を改善します。

すると、曲がっていた脚が伸びるため、結果として脚が少し長くなることがあります。


3. 「脚が長くなった気がする」は本当に脚が長い?

ここが非常に重要です。

実は、本当に長くなっている場合と、そう感じるだけの場合があります。


4.「気がする」だけのケースが意外と多い

術後には、

  • 骨盤の傾き
  • 筋肉の緊張
  • 歩き方
  • 脳の感覚

がまだ手術前の状態を覚えています。

そのため、

実際には数mmしか違わなくても、

患者さんは

「2cmくらい違う気がします。」

と感じることがあります。

これを

Perceived Leg Length Discrepancy(脚長差の自覚)

と呼びます。


5. この違和感は治る?

多くは改善します。

研究では、術後に感じる脚長差は、

約2か月(平均8.5週間)程度で自然に軽快する患者さんが多いことが報告されています。

つまり、術後1か月くらいで

かほりさん
かほりさん

「何となく左右が違う。」

と感じても、あまり心配しなくて大丈夫です。


6. 左右差はどれくらいなら問題ない?

医学的には、10mm未満(1cm未満)であれば、多くの患者さんは日常生活に大きな支障をきたしません。

一方、

10mm以上

になると、

  • 満足度低下
  • 歩きにくさ
  • 機能低下

との関連が報告されています。


7. インソール(足底板)は必要?

答えは、

すぐには必要ありません。

術後数週間は、

まだ

  • 骨盤
  • 筋肉
  • 歩き方

が変化しています。

そのため、術後早期からインソールを作るより、まずはリハビリで様子を見ることが多いです。

数か月経っても明らかな脚長差が残る場合に、必要に応じてインソールを検討します。


8. 逆に「脚が短くなった」と感じることもある?

あります。

これは、反対側の膝がまだ強いO脚の場合です。

例えば、右膝だけ人工膝関節にすると、

右脚がまっすぐになり、左脚とのバランスが変わります。

すると、

患者さんは

「右が長い」

ではなく、

「左が短い」

と感じることもあります。

人間の感覚は本当に不思議です。


9. 歩き方が原因のこともある

術前は何年も痛みをかばって歩いています。

その歩き方が脳に染み付いています。

つまり、膝は治っても、歩き方はまだ昔のまま。

その結果、脚長差を感じることがあります。

ここで重要なのがリハビリです。


10. 私が患者さんにお伝えしていること

外来では、こう説明しています。

塗山先生
塗山先生

新しい靴を履いた日を思い出してください。

最初は違和感があります。

でも、数週間すると、その靴が当たり前になります。

人工膝関節も同じです。

身体は少しずつ新しい脚に慣れていきます。


11. 整形外科医塗山の本音

患者さんから、

「先生、脚が長くなりました!」

と言われることがあります。

実際には、長年O脚だった膝が本来の位置へ戻っただけなのです。

人工膝関節は、脚を伸ばす手術ではありません。

「まっすぐな脚を取り戻す手術」なのです。


12. まとめ

人工膝関節置換術後には、脚が少し長くなることがあります。

これはO脚が改善することで起こる正常な変化です。

覚えておいていただきたいポイント

✅ 平均で約6mm程度長くなることがある

✅ 「長く感じる」だけの場合も多い

✅ 多くは2か月程度で違和感が改善する

✅ 10mm未満なら大きな問題にならないことが多い

✅ リハビリで歩き方を整えることが重要

そして何より、脚の長さより大切なのは、痛みなく歩けること。

長年、痛みに耐えながら歩いてきた人生から、笑顔で歩ける人生へ。

それこそが人工膝関節置換術の本当の目的なのです。


13. 参考文献(査読付き論文)

  1. Tripathy SK, Pradhan SS, Varghese P, et al. Limb length discrepancy after total knee arthroplasty: A systematic review and meta-analysis. World Journal of Orthopedics. 2021;12(2):73-89.
  2. Goldstein ZH, Yi PH, Levine BR, Della Valle CJ, Sporer SM, et al. Perceived Leg-Length Discrepancy After Primary Total Knee Arthroplasty: Does Knee Alignment Play a Role? American Journal of Orthopedics. 2016.
  3. Tipton SC, Sutherland AG, et al. Limb length discrepancy after total knee arthroplasty: Unilateral versus bilateral, a comparative study. Journal of Clinical Orthopaedics and Trauma. 2020.
  4. Kim TK, et al. The influence of limb length discrepancy on functional outcome after total knee arthroplasty. Journal of Bone and Joint Surgery.(脚長差と術後機能の関連について報告)
  5. Bellemans J, Victor J, et al. Restoration of lower limb alignment in total knee arthroplasty. Clinical Orthopaedics and Related Research.(TKAにおけるアライメント矯正の重要性)




14. 塗山先生からのひと言

人工膝関節置換術のあと、「脚が長くなった気がする」と感じる患者さんは少なくありません。

でも、それは多くの場合、長年のO脚から解放され、身体が本来の姿勢を思い出している途中なのです。

身体はとても正直ですが、慣れるには少し時間がかかります。

焦らなくて大丈夫です。

新しい膝と、新しい歩き方は、毎日の一歩一歩の中で少しずつあなたのものになっていきます。

そしてある日ふと、

「そういえば最近、脚の長さなんて気にならなくなったな。」

そんな日がきっとやってきます。

以上、参考になりましたでしょうか?

では、筋トレに行ってきます。




人工膝関節の手術を受けると脚の長さが少し伸びる事が多い!




【執筆】塗山正宏 医師
世田谷人工関節・脊椎クリニック
日本整形外科学会認定整形外科専門医

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