「歩くことは、人生を前へ進めることです。」
― 整形外科医が伝えたい、“歩けること”の本当の価値 ―
整形外科医の塗山正宏です。
1. はじめに|あなたは最後に「歩くこと」を意識したのはいつですか?
私たちは毎日、当たり前のように歩いています。
家の中を歩く。
駅まで歩く。
買い物へ歩く。
散歩をする。
しかし、股関節や膝が痛くなり、思うように歩けなくなったとき、多くの患者さんが初めて気づきます。
「歩けることは、こんなにも大切だったんだ。」
私は診療の中で、いつもこのように感じています。

歩くことは、人生を前へ進めることです。
この言葉には、医学的な意味だけでなく、私が整形外科医として日々感じている思いが込められています。
2. 歩けなくなると、人生は少しずつ狭くなる
変形性股関節症や変形性膝関節症になると、最初は「少し痛い」程度かもしれません。
しかし、痛みを我慢し続けると、
- 長距離を歩かなくなる
- 階段を避ける
- 外出の回数が減る
- 趣味を控える
という変化が少しずつ現れます。
さらに進行すると、
- 旅行を諦める
- 友人と会う機会が減る
- 運動不足になる
- 筋力が低下する
という悪循環に陥ります。
つまり、歩けなくなることで失われるのは「移動手段」だけではありません。
人生そのものの広がりなのです。
3. 歩くことには医学的にも大きな意味がある
歩くことは、単に足を動かす運動ではありません。
適度な歩行には、
- 筋力の維持・向上
- 心肺機能の維持
- 骨粗しょう症の予防
- 生活習慣病の予防
- 転倒リスクの軽減
- 認知機能の維持
- ストレスの軽減
など、多くの効果があることが報告されています。
特に人工股関節や人工膝関節の術後では、適切な歩行は筋力回復やバランス能力の改善につながり、生活の質(QOL)の向上に欠かせません。
4. 人工関節手術の目的は「歩ける人生」を取り戻すこと
人工股関節置換術や人工膝関節置換術は、「人工物を入れる手術」ではありません。
本当の目的は、
「また歩ける人生を取り戻すこと」
です。
歩けるようになることで、
- 買い物へ行ける
- 旅行を楽しめる
- 孫と遊べる
- 趣味を再開できる
という未来が待っています。
5. 実際の患者さんのお話
70代の女性患者さん。
重度の変形性股関節症で、外出は近所のスーパーだけになっていました。

先生、歩くと痛いから、なるべく家にいるんです。
人工股関節置換術を受け、リハビリを続けた結果、術後半年にはご夫婦で温泉旅行へ行かれました。
診察室で見せてくださった旅行の写真とともに、

歩けるようになったら、景色まで変わりました。
と話された言葉は、今でも忘れられません。
歩けるようになったのは足だけではありません。
人生が再び動き始めた瞬間でした。
6.「何のために歩くのか」を忘れないでください
リハビリ中の患者さんに、
「歩いてくださいね」
とお伝えすると、
「何分歩けばいいですか?」
という質問をいただきます。
もちろん歩行時間は大切です。
しかし、それ以上に大切なのは、
「何のために歩くのか」
です。
- また旅行に行くため
- 孫と公園を歩くため
- 好きなゴルフを楽しむため
- 家族と買い物へ行くため
その目標が、毎日のリハビリを支える力になります。
7. 今日の一歩が、未来をつくる
歩くことは、一日で人生を変えるものではありません。
でも、
- 今日100メートル歩いた
- 明日は200メートル歩けた
- 来月は1キロ歩けるようになった
そんな小さな積み重ねが、
数か月後には「旅行へ行けた」「山を散策できた」「孫と手をつないで歩けた」という未来につながります。
回復は、奇跡ではありません。
毎日の一歩の積み重ねなのです。
8. まとめ

歩くことは、人生を前へ進めることです。
歩くことは、単なる移動ではありません。
歩くことで、
- 会いたい人に会える
- 行きたい場所へ行ける
- やりたいことに挑戦できる
そして何より、
「自分らしい人生」を取り戻すことができます。
股関節や膝の痛みで歩くことを諦めている方へ。
どうか痛みを我慢し続けるだけではなく、一度専門医に相談してください。
歩けるようになることは、人生をもう一度前へ進める第一歩です。
私の役割は、その一歩を支えることだと考えています。
以上、参考になりましたでしょうか?
では、筋トレに行ってきます。
9. 参考文献
- Learmonth ID, Young C, Rorabeck C. The operation of the century: total hip replacement. Lancet. 2007;370(9597):1508-1519.
- Tilbury C, Schaasberg W, Plevier JW, et al. Return to daily activities, work, and sports after total hip arthroplasty. Clin Orthop Relat Res. 2014;472(1):1247-1253.
- Bull FC, Al-Ansari SS, Biddle S, et al. World Health Organization 2020 guidelines on physical activity and sedentary behaviour. Br J Sports Med. 2020;54:1451-1462.
- Lee IM, Shiroma EJ, Lobelo F, et al. Effect of physical inactivity on major non-communicable diseases worldwide. Lancet. 2012;380(9838):219-229.
【執筆】塗山正宏 医師
世田谷人工関節・脊椎クリニック
日本整形外科学会認定整形外科専門医


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