格言 Season199

リハビリ 格言

― 人工関節手術を受けた一人の患者さんの物語 ―

整形外科医の塗山正宏から皆様へあるエピソードを紹介します。


■ 「もう歩けなくなるのかと思っていました」

70代の女性Aさん。
長年、股関節の痛みに悩まれていました。

  • 近所の買い物もつらい
  • 階段は手すりがないと不安
  • 外出は必要最低限

「年齢だから仕方ない」
そう自分に言い聞かせながら、生活の範囲は少しずつ狭くなっていきました。

初めて外来に来られたとき、Aさんはこう言いました。

手術は怖いです。でも、このまま動けなくなるのも怖いんです。




■ 手術という“点”

検査と診察の結果、人工股関節置換術を選択されました。

手術当日。
人工股関節置換術は約30分で終了しました。

医学的には順調。
手術後のレントゲンも問題ありません。

しかし、Aさんにとってはここがゴールではありません。

塗山先生
塗山先生

治療は“点”。人生を変えるのは、そのあとです。




■ 「本当に歩いていいんですか?」

術後当日。
もうリハビリが始まります。

「体重をかけて大丈夫ですよ」と伝えても、Aさんは慎重でした。

  • また痛くなるのではないか
  • 人工関節が壊れるのではないか
  • 転んでしまうのではないか

これは多くの患者さんに共通する不安です。

関節は治療できても、“安心して動ける自信”はすぐには戻りません。


■ 回復という“線”

最初は、病室の中を数歩。

次に、廊下をゆっくり。

やがて、リハビリ室まで歩けるようになりました。

「昨日より、少し楽に歩けました」

その一言が、回復の証です。

塗山先生
塗山先生

回復は一日で起こるものではありません。
毎日の積み重ねで“線”として伸びていきます。



■ 一度、立ち止まる時期もある

回復は順調で術後1週間で退院。

その後、外来で術後3週間ほど経ったころ、Aさんは少し元気をなくしていました。

思ったより良くならない気がします…

回復には波があります。

  • 痛みがぶり返す日
  • 動きにくい日
  • 不安が強くなる日

ここで無理をすると、線は途切れます。
逆に、やめてしまっても止まります。

だから私はこう伝えました。

塗山先生
塗山先生

大丈夫です。回復は波のようなものです。
良い時もあれば悪い時もあります。




■ 「また外に出てみようと思います」

手術後1か月半。

Aさんは外来でこう話してくれました。

「近くのスーパーまで歩いて行けました」
「ちょっと怖かったけど、行けました」

この“ちょっと”が、とても大切です。

それは筋力ではなく、
またやってみようと思えた気持ち”だからです。


■ 人生という“面”が広がる

それから3か月後。

Aさんは笑顔でこう言いました。

「今度、娘と旅行に行く予定なんです。」

かつては諦めていた外出。
それが、再び日常の一部になっていました。

  • 行ける場所が増える
  • 会える人が増える
  • 楽しみが戻る

それが、人生という“面”の回復です。


■ 医師としての役割

私は手術を行いました。
しかし、Aさんの人生を変えたのは手術そのものではありません。

  • 一歩ずつ歩いたこと
  • 続けたこと
  • あきらめなかったこと

その“線”が、人生を広げたのです。

塗山先生
塗山先生

治療は点、回復は線、人生は面。
私は線を支える役目です。




■ まとめ|あなたの回復も、これから線になる

もし今、

  • 手術を迷っている方
  • リハビリがつらいと感じている方
  • 思うように回復しないと悩んでいる方

がいれば、お伝えしたいことがあります。

回復は、突然訪れるものではありません。
静かに、確実に伸びていくものです。

そしてその先には、必ず「広がる人生」があります。

焦りは禁物。

着実に前に進んでいきましょう。






【執筆】塗山正宏 医師
世田谷人工関節・脊椎クリニック
日本整形外科学会認定整形外科専門医

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