治療は点、回復は線、人生は面。私は線を支える役目です。
― 人工関節手術を受けた一人の患者さんの物語 ―
整形外科医の塗山正宏から皆様へあるエピソードを紹介します。
■ 「もう歩けなくなるのかと思っていました」
70代の女性Aさん。
長年、股関節の痛みに悩まれていました。
- 近所の買い物もつらい
- 階段は手すりがないと不安
- 外出は必要最低限
「年齢だから仕方ない」
そう自分に言い聞かせながら、生活の範囲は少しずつ狭くなっていきました。
初めて外来に来られたとき、Aさんはこう言いました。

手術は怖いです。でも、このまま動けなくなるのも怖いんです。
■ 手術という“点”
検査と診察の結果、人工股関節置換術を選択されました。
手術当日。
人工股関節置換術は約30分で終了しました。
医学的には順調。
手術後のレントゲンも問題ありません。
しかし、Aさんにとってはここがゴールではありません。

治療は“点”。人生を変えるのは、そのあとです。
■ 「本当に歩いていいんですか?」
術後当日。
もうリハビリが始まります。
「体重をかけて大丈夫ですよ」と伝えても、Aさんは慎重でした。
- また痛くなるのではないか
- 人工関節が壊れるのではないか
- 転んでしまうのではないか
これは多くの患者さんに共通する不安です。
関節は治療できても、“安心して動ける自信”はすぐには戻りません。
■ 回復という“線”
最初は、病室の中を数歩。
次に、廊下をゆっくり。
やがて、リハビリ室まで歩けるようになりました。
「昨日より、少し楽に歩けました」
その一言が、回復の証です。

回復は一日で起こるものではありません。
毎日の積み重ねで“線”として伸びていきます。
■ 一度、立ち止まる時期もある
回復は順調で術後1週間で退院。
その後、外来で術後3週間ほど経ったころ、Aさんは少し元気をなくしていました。

思ったより良くならない気がします…
回復には波があります。
- 痛みがぶり返す日
- 動きにくい日
- 不安が強くなる日
ここで無理をすると、線は途切れます。
逆に、やめてしまっても止まります。
だから私はこう伝えました。

大丈夫です。回復は波のようなものです。
良い時もあれば悪い時もあります。
■ 「また外に出てみようと思います」
手術後1か月半。
Aさんは外来でこう話してくれました。
「近くのスーパーまで歩いて行けました」
「ちょっと怖かったけど、行けました」
この“ちょっと”が、とても大切です。
それは筋力ではなく、
“またやってみようと思えた気持ち”だからです。
■ 人生という“面”が広がる
それから3か月後。
Aさんは笑顔でこう言いました。
「今度、娘と旅行に行く予定なんです。」
かつては諦めていた外出。
それが、再び日常の一部になっていました。
- 行ける場所が増える
- 会える人が増える
- 楽しみが戻る
それが、人生という“面”の回復です。
■ 医師としての役割
私は手術を行いました。
しかし、Aさんの人生を変えたのは手術そのものではありません。
- 一歩ずつ歩いたこと
- 続けたこと
- あきらめなかったこと
その“線”が、人生を広げたのです。

治療は点、回復は線、人生は面。
私は線を支える役目です。
■ まとめ|あなたの回復も、これから線になる
もし今、
- 手術を迷っている方
- リハビリがつらいと感じている方
- 思うように回復しないと悩んでいる方
がいれば、お伝えしたいことがあります。
回復は、突然訪れるものではありません。
静かに、確実に伸びていくものです。
そしてその先には、必ず「広がる人生」があります。
焦りは禁物。
着実に前に進んでいきましょう。
【執筆】塗山正宏 医師
世田谷人工関節・脊椎クリニック
日本整形外科学会認定整形外科専門医


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